赤いドレスの女の子
下げた右手に白い旗、高く上げた左手に赤い旗
ヘンテコな機械が吐き出す入道雲
その隙間から黄色いタイヤの自転車が空に向かって飛んでいる
人の夢を喰らって生きる獏がギターを抱えて乗っている
そんな絵が描かれた七月のカレンダー
やたらと目につくのはキッチンに座り込んでタバコを吸う回数が増えたからだ
台風の深夜
生ぬるい風が吹く街には人がいない
道路に捨てられた壊れたカサ
不要になったら捨てられる
最近、カサを大事にしない人が増えたような気がする
誰もいない台風の夜にひとり街を歩いた、少しだけ
玄関に立てかけていたカサは強風で飛ばされたのか盗まれたのかどこにも見当たらない
しかたない小雨の中を濡れて歩こう
ヘッドフォンから流れるJimi Hendrixの歪んだギターサウンド
台風とジミヘンはあんまり合わない気がして聞くのをすぐにやめた
突然なった携帯電話
驚いてたのは電話の主の方だった
こんな台風の夜中にひとりで散歩してることを気味悪がられた
しかたがないから理由をつけることにした
腹が減ったからモスバーガーに向かってるんだ
だからモスバーガーに向かうことにした
店内には閉店作業をする従業員
閉店まであと2分だったのでテイクアウト
途中拾ったカサは壊れたので捨てた
おれもそこらの人間となんら変わりない
不要になれば捨てる側の人間だということに気付かされた
部屋に戻りハンバーガーを食べる
いつも余ってしまうソースにオニオンリングをディップする
部屋の電気を消してまた水槽の光だけにする
ステレオから流れるMassive Attackの音
深く暗く、底に沈んでいく感じが心地良い
瓶の底に溜まった沈殿物のように過ごす休日の夜
息をする度に胸が痛む
だから呼吸するのを止めてみた
静かに心臓の音が聞こえる
もうすぐ夜が明ける、もうすぐ夜が明ける、もうすぐ夜が明ける
夜明けを待つ人は多い
だけどそうじゃない連中もいる
日の光を毛嫌いする夜の生物たち・・・
今夜をもう一度
[1回]
PR